2月に日本酒ファンが最も心待ちにしているイベントといえば「立春朝搾り」です。「立春の朝」に搾ったお酒がその日のうちに発売される一年に一度のイベントです。極上の鮮度と縁起の良さから日本酒ファンの間で熱狂的な人気を誇り、毎年予約完売が続く“福を呼ぶ祝い酒”として親しまれています。
そこで今回は、この特別な縁起酒の魅力と、2026年に参加する全42蔵の完全ラインナップを徹底解説します。
立春朝搾りとは?

「立春朝搾り(りっしゅんあさしぼり)」とは、立春の日の早朝に搾った日本酒を火入れせずその日のうちに届ける限定酒です。1998年に日本名門酒会によってスタートしたプロジェクトで、全国各地の蔵元と酒販店の協力によって広く定着しました。
二十四節気の「立春」は、暦の上での一年の始まり。つまり、立春朝搾りは「一年の始まりに、最初に口にする縁起酒」 とも言えます。ただの季節限定酒ではなく、立春の朝に搾られた新酒をその日のうちに飲む・祝うといった特別な文化なのです。
由来と誕生の背景
立春は古くから「新しい年の始まり」「農耕・生命の巡りの起点」とされてきました。日本酒は本来、神事・祈り・節目と強く結びついた存在で、神社での御神酒や正月の屠蘇、地鎮祭、結婚式など、人生と季節の節目には必ず酒があります。立春朝搾りは、その日本酒文化を現代に再編集した存在とも言えます。
立春当日の朝に仕上がる「立春朝搾り」は、瓶詰めして出荷するだけではありません。神社で御祈祷を受けたり、その日のうちに消費者へ届けたりする必要があります。これを実現するには、酒蔵・酒販店・物流・神社、すべてが連携しなければ不可能です。だからこそ、立春朝搾りは「酒蔵だけで作る酒」ではなく、地域と人が一体になって生まれる酒なのです。
なぜ「祈祷」を行うのか?

立春朝搾りは、御祈祷を受けてから出荷されます。まだ夜が明けきらぬうちから近隣神社の神主を蔵に招き(もしくは神社に訪れ)、搾りあがったばかりのお酒の前で「出荷清祓(しゅっかんきよはらい)」の神事が執り行われます。瓶詰めされたばかりのお酒は祭壇に並べられ、1本1本に八百万の神々の加護が宿るよう丁寧にお祓いが行われます。この祈祷には3つの意味が込められています。
邪気を払い、春の福を呼び込む
「立春」は旧暦の正月にあたり、一年の始まりと考えられてきました。季節の変わり目には邪気が入りやすいとされるため、お祓いを受けることでその年の災厄を払い、飲む人に「春の福」を届けるという願いが込められています。
「造り手・売り手・飲み手」すべての人の無病息災を祈る
この祈祷は、お酒そのものだけでなく、過酷な冬の造りを終えた蔵人たちの労い、そして早朝からお酒を各家庭に届ける酒販店、さらにはそれを口にする消費者の「家内安全」「商売繁盛」「無病息災」を祈願するものです。
「立春大吉」の精神を形に
立春朝搾りのボトルには、しばしば「立春大吉」と書かれたお札が添えられます。これは、左右対称の文字が「裏から見ても同じ」であることから、鬼が家に入って振り返っても「まだ入っていない」と勘違いして出ていくという、厄除けのシンボルです。祈祷を受けることで、お酒自体がこのお札と同じような強力な「守護の力」を持つと考えられています。
味わいの特徴と魅力

立春朝搾りの多くは、一切の火入れ(加熱)を行わない「無濾過生原酒」。搾りたて特有の生命力を感じられる味わいが特徴です。
フレッシュなガス感: 酵母が作り出した炭酸ガスがわずかに残り、ピチピチとした刺激が楽しめます。
濃醇な旨みと香り: 加水調整をしない「原酒」のため、アルコール度数はやや高めですが、お米本来の甘みとフルーティーな香りがダイレクトに伝わります。
「朝」と「夜」で変わる表情: 搾りたて直後は荒々しく力強い味わいですが、グラスに注いで空気に触れると、みるみるうちに香りが開いていきます。
杜氏(とうじ)泣かせの精密な酒造り

通常、日本酒は生き物です。発酵の進み具合は気温や米の状態に左右されるため、搾る日を完璧にコントロールするのは至難の業。しかし、立春朝搾りは「2月4日の早朝」という絶対の締め切りがあるため、杜氏は逆算して仕込みを行い、眠れぬ夜を過ごしながら立春の朝に最高の状態(ピーク)が来るよう調整します。まさに蔵元の技術と意地が試される「真剣勝負」の一本なのです。
【2026年版】参加全42蔵元ラインナップ

2026年は、全国から厳選された42の蔵元がこの挑戦に参加します。
発売日: 2026年2月4日(水)
参加蔵数: 全国42蔵
予約締切: 2026年1月30日(金)前後
※多くの酒販店で1月末に予約を締め切ります。また、蔵ごとに本数制限があるため、早めの予約が必須です。
参加全42蔵元のラインナップは次の通りです。
北海道・東北地方
・男山(おとこやま):男山株式会社(北海道)
・如空(じょくう):八戸酒類株式会社 五戸工場(青森県)
・一ノ蔵(いちのくら):株式会社一ノ蔵(宮城県)
・天寿(てんじゅ):天寿酒造株式会社(秋田県)
・大山(おおやま):加藤嘉八郎酒造株式会社(山形県)
・千代寿(ちよことぶき):千代寿虎屋株式会社(山形県)
・榮川(えいせん):榮川酒造株式会社(福島県)
・弥右衛門(みぎえもん):合資会社大和川酒造店(福島県)
関東地方
・月の井(つきのい):株式会社月の井酒造店(茨城県)
・開華(かいか):第一酒造株式会社(栃木県)
・仙禽(せんきん):株式会社せんきん(栃木県)
・天覧山(てんらんざん):五十嵐酒造株式会社(埼玉県)
・甲子(きのえね):株式会社飯沼本家(千葉県)
・多満自慢(たまじまん):石川酒造株式会社(東京都)
・盛升(さかります):黄金井酒造株式会社(神奈川県)
中部地方
・越の誉(こしのほまれ):原酒造株式会社(新潟県)
・萬歳楽(まんざいらく):株式会社小堀酒造店(石川県)
・春鶯囀(しゅんのうてん):株式会社萬屋醸造店(山梨県)
・信濃錦(しなのにしき):合資会社宮島酒店(長野県)
・大雪渓(だいせっけい):大雪渓酒造株式会社(長野県)
・長良川(ながらがわ):小町酒造株式会社(岐阜県)
・開運(かいうん):株式会社土井酒造場(静岡県)
・蓬莱線(ほうらいせん):関谷醸造株式会社(愛知県)
近畿地方
・若戎(わかえびす):若戎酒造株式会社(三重県)
・旭日(きょくじつ):藤居本家(滋賀県)
・月の桂(つきのかつら):株式会社増田德兵衞商店(京都府)
・酒呑童子(しゅてんどうじ):ハクレイ酒造株式会社(京都府)
・富久錦(ふくにしき):富久錦株式会社(兵庫県)
・春鹿(はるしか):今西清兵衛商店(奈良県)
・梅乃宿(うめのやど):梅乃宿酒造株式会社(奈良県)
中国地方
・豊の秋(とよのあき):米田酒造株式会社(島根県)
・七冠馬(ななかんば):簸上清酒合名会社(島根県)
・嘉美心(かみこころ):嘉美心酒造株式会社(岡山県)
・賀茂泉(かもいずみ):賀茂泉酒造株式会社(広島県)
・五橋(ごきょう):酒井酒造株式会社(山口県)
四国地方
・鳴門鯛(なるとたい):株式会社本家松浦酒造場(徳島県)
・梅錦(うめにしき):梅錦山川株式会社(愛媛県)
・司牡丹(つかさぼたん):司牡丹酒造株式会社(高知県)
九州地方
・萬代(ばんだい):株式会社小林酒造本店(福岡県)
・窓乃梅(まどのうめ):佐嘉酒造株式会社(佐賀県)
・香露(こうろ):株式会社熊本県酒造研究所(熊本県)
・西の関(にしのせき):萱島酒造有限会社(大分県)
※以上、全て順不同
予約方法と「賢い」買い方
立春朝搾りは、通常の流通とは異なります。確実に手に入れるためのステップを解説します。
「日本名門酒会」加盟店を探す
この企画は酒販店と蔵元のネットワークで成り立っています。公式サイト等で、最寄りの加盟酒販店を特定しましょう。
1月中の予約が鉄則
2月4日の出荷に合わせて、多くの酒屋さんは1月下旬に予約を締め切ります。蔵ごとに本数が決まっているため、「当日お店に行けば買える」と思わず、必ず事前予約をしましょう。最近ではIMADEYAなどのオンラインショップでも予約を受け付けていますが、当日配送が可能なエリアが限られるため、事前に配送予定日も確認しておきましょう。
「地元の蔵」を選ぶメリット
このお酒は、酒販店さんが自ら蔵まで車で取りに行きます。地元の蔵の銘柄であれば、2月4日の夕方には確実に店頭に並び、世界で最も新鮮な状態で楽しむことができます。
プロが教える「立春朝搾り」を120%楽しむコツ
「立春朝搾り」は、手に入れるまでのストーリーもさることながら、その「飲み方」によって感動の度合いが大きく変わります。日本酒の専門家が推奨する、この日限りの贅沢な楽しみ方を3つのポイントで解説します。
届いたその日に飲む!
このお酒の最大の価値は「鮮度」です。2月4日の夜に、まずはキンキンに冷やした状態で、搾りたてのガス感とフレッシュな米の甘みを堪能してください。
冷蔵庫でしっかりと冷やしてから抜栓してください。グラスに注ぐと、搾りたての証である微細な炭酸ガスがチリチリと弾けるはずです。一口含めば、無濾過生原酒ならではの濃密な米の甘みと、驚くほどフレッシュな酸味が口いっぱいに広がります。この「生まれたての躍動感」を味わえるのは、搾った当日だけの特権。翌日以降も美味しくいただけますが、初日のピリッとしたエネルギーは格別な体験となるでしょう。
ラベルの裏までチェック
「立春朝搾り」のボトルには、通常の銘柄にはない特別な工夫が凝らされていることが多々あります。お酒を注ぐ前に、ぜひラベルの裏側を覗いてみてください。
一部の蔵元では、ラベルの裏面におみくじを印字していたり、その年の酒造りにかける想いや、立春を祝う特別なメッセージを隠していたりします。これは、暗いニュースを吹き飛ばし、飲み手に笑顔を届けたいという蔵元の「粋」な計らいです。ボトル越しに透けて見えるメッセージを探すのも、このお酒ならではの風流な楽しみ方と言えます。
「立春大吉」のお札と共に
立春朝搾りを購入すると、多くの酒販店で「立春大吉」と書かれた縁起の良いお札が一緒に配られます。これは単なるおまけではなく、お酒と同様に神主によって祈祷された大切なものです。お酒を堪能した後は、このお札を玄関や部屋の入り口に貼り、新しい一年の無病息災を願いましょう。「お酒で体を清め、お札で家を守る」。これこそが「立春朝搾り」の正しい作法です。
いかがでしたか? 冬の厳しい寒さを超えて、春の光が見え始めるこの日に、祈りを込めて搾られた「立春朝搾り」を飲むことは、日本人として非常に豊かな体験になります。2026年の立春、その朝にしか生まれない一杯をぜひ味わってみてください。










