日本酒業界を盛り上げるキーパーソンに迫るインタビュー企画「サケビト」。 今回ご紹介するのは、日本で唯一の酒類業界特化型コンサルティングファーム「株式会社アンカーマン」の代表取締役、和田直人さんです。 国内最大手の証券会社を経て、2014年に同社を創業した和田さん。現在までに240社以上の酒蔵の資金調達(補助金申請)や経営改善、さらには人材紹介までを一気通貫でサポートしています。 学生時代は「罰ゲームのお酒」という偏見を持っていたものの、そこから一転して日本酒の虜になったという和田さんに、起業のきっかけや蔵元との熱いエピソード、そして日本酒業界の未来についてお話を伺いました。
「好きなものに取り組みたい」 日本唯一の酒類専門コンサル

ーー本日はよろしくお願いします! まずは、証券会社で活躍されていた和田さんが、日本酒業界で起業しようと思ったきっかけについて教えてください。
和田さん 学生時代、日本酒といえば「罰ゲームで一気飲みするもの」というあまり良くない印象を持っていたんです。しかしある時、青森県の「豊盃」という純米吟醸を飲んで「これまで自分が思っていた日本酒と全然違う!」と衝撃を受けました。それをきっかけに日本酒に魅力を感じるようになったんですが、日本酒には全国の全銘柄を一生のうちに飲み切れることはないくらいいろんな種類があり、且つその一つひとつに造り手の想いが込められている…その多様な世界観にすっかり“くらって”しまったんです。
ーーとはいえ証券会社から日本酒業界で起業するというのは、かなり大胆な決断ですよね。そこまで熱いパッションを持てた根底には何があったのでしょうか?
和田さん 「日本酒の世界っていいな」という思いは、学生の後半くらいからずっと持っていたんです。その後、一度はサラリーマンとして証券会社に就職しましたが、いざ自分で起業しようと考えた時に「どうせなら自分の好きなものに取り組んでいきたい」と思い、日本酒をビジネスのドメイン(領域)に選びました。 私の実家は酒屋でもなんでもないので、それまでお酒業界とは全く関係がありませんでしたが、「全く関係ない外部の人間だからこそ、この業界に一石を投じることができるのではないか」という想いがありましたね。
ーー最初はどのような事業からスタートされたのでしょうか?
和田さん 最初は「日本酒を海外へ」と考え、輸出に挑戦しました。しかし、実績がないため輸出免許の取得に苦労し、海外の展示会に行っても全く売れず挫折してしまったんです。 そこで、海外の人に日本の魅力が伝わっていないことが原因だと考え、来日する外国人向けの「酒蔵ツアー」に方向転換しました。ツアーは盛況でしたが、ビジネスとしての広がりに悩んでいた時期でもありました。 そんな時、ツアーで仲良くなった蔵元さんから「起業したばかりなのに、どうやって外国人を集客するお金を工面しているの?」と聞かれたんです。「補助金制度を活用して、自分で事業計画を作って資金を調達しました」と答えたところ、「そんな制度で資金が確保できるなら、うちの会社の事業計画も作ってよ」と頼まれました。蔵元さんの想いや歴史はツアーの通訳を通じて熟知していたので、私が代わりに事業計画書を書き上げたのが現在のコンサルティング事業の原点です。
蔵元との二人三脚! 資金調達が叶える酒蔵の課題解決

ーー補助金申請の支援から始まり、現在では240社以上の蔵元を支援されています。酒蔵さんからはどのような相談が多いのでしょうか?
和田さん 多くの場合、製造工程の改善ですね。もっと良いお酒を造りたいけど、温度管理が難しいからサーマルタンクを入れたい、人手が足りないからラベラー(ラベル貼り機)を入れたいといった設備投資の相談が多く寄せられます。
ーー酒蔵で使う設備となると、放冷機やラベラーなどかなり高額なイメージがありますが、実際どれくらいの費用がかかるのでしょうか?
和田さん そうですね。例えば、今まで手作業で貼っていたラベルを自動化するラベラーを普通に導入しようとすると、やはり1,000万円〜2,000万円程かかってしまいます。
ーー1,000万〜2,000万円! それは自社だけで賄うにはかなりハードルが高いですね。そこで補助金の活用となるわけですが、申請の手続き自体も煩雑で大変なのではないですか?
和田さん おっしゃる通りです。補助金を申請するためには、Wordで何十ページにもわたる専門的な事業計画書を作成しなければなりません。日々の酒造りで忙しい蔵元さんにとって、それだけの時間を確保し、ノウハウがない中で精度の高い計画書を書くのは非常に困難です。さらに最近では、賃上げなどの厳しい要件を満たしていないと後から返還義務が生じてしまうケースもあるなど、条件も複雑化しています。そのため、蔵元さんが自前で申請した場合の採択率は4〜5割程度にとどまってしまいます。
ーーそこで、酒類業界に特化しているアンカーマンさんの出番というわけですね。
和田さん はい。私たちは日本で唯一の酒類専門コンサルタントとして、酒造りの工程や業界の市場動向を熟知しています。蔵元さんが抱える課題や言葉にできない想いを審査官にしっかりと伝わる高精度な事業計画書へと落とし込むことで、私たちがサポートした場合の採択率は8.5割〜9割まで引き上げています(過去の全体採択率としては78%)。
ーー圧倒的な数字ですね! 実際にサポートを受けられた酒蔵さんからは、どのような声が届いているのでしょうか?
和田さん 支援させていただくプロジェクトの内容は多岐にわたるため一概には言えないのですが、ありがたいことにアンカーマンの公式サイトには現在100本近くの蔵元様のインタビュー記事(お客様の声)を掲載させていただくほど、たくさんの反響をいただいています。 資金調達によって長年の課題だった設備投資が実現し、そこから経営改善まで伴走することで「生産性が上がった」「酒質が良くなった」と喜んでいただけるのは、コンサルタントとして本当に嬉しい瞬間ですね。
「体験」が人を惹きつける! 「コト消費」が切り拓く日本酒の価値
ーーそれだけ多くの蔵元さんと二人三脚で歩まれてきた中で、特に和田さんの印象に残っているエピソードはありますか?

和田さん 千葉県酒々井町(しすいまち)にある「飯沼本家」さんとの「酒々井の夜明け」という商品開発プロジェクトですね。「日本酒のラベルってダサくない?」という声を聞くことがあり、商品のリブランディングをしようというところから始まった企画です。ワインの「ボジョレーヌーボー」のように、その年の初物のお米で仕込んだ日本酒を夜中(12時を越えてから)に絞り出して、朝一番で酒屋さんに届けるという前代未聞の挑戦をしました。徹夜でロケハンをしてPR動画を作ったり、特注のボトルを用意したりと、蔵元さんにとっても非常に大変な企画でしたが、大きな反響を呼びました。私は以前から、お酒を単なる「モノ消費」から体験を伴う「コト消費」に変えていこうと、蔵元さんたちに強烈に売り込んでいたんです。この企画も、まさにそうした価値を提供するものでした。
ーーお酒を買うだけでなく、プロセスやストーリーを共有する。まさに「体験」としての新しい日本酒の形ですね! 他にも印象的なプロジェクトはありますか?
和田さん 過去に別の蔵元さんで「一般の人も造り手になれる酒造り体験」をクラウドファンディングで企画したこともありました。当時(2017年頃)はクラファン自体がまだ出始めの頃だったのですが、専用ブランドのコンセプト作りからデザイン、集客、当日のオペレーション、そして出来上がったお酒の発送まで「全部やるからやりませんか!」と私が蔵元さんに持ち込んだんです。自分がユーザー側の立場だったら絶対にやりたい企画だと思ってはいましたが、果たして市場にどれだけ受け入れられるのか分からず、なかなかしびれましたね。結果的に、「酒造りを体験したい」というニーズは非常に高く、当時の日本酒系プロジェクトとしては最高額を記録し、一瞬で売り切れるほど大盛況だったんです。これは、体験(コト)としての日本酒が持つ圧倒的な価値と可能性を市場が証明してくれた瞬間でしたね。日本酒は単なる「飲み物」にとどまらず、造るプロセスや背景にあるストーリーを共有することで人を強く惹きつける強力な「コンテンツ」になり得るのだと痛感しました。
「ガッツ」求む! 酒蔵エージェントが繋ぐ人材

ーー資金面のサポートや商品開発だけでなく、「酒蔵エージェント」という人材紹介サービスも立ち上げられていますね。
和田さん はい。これまで酒蔵ツアーやコンサルティングを通して、全国の蔵元さんから「来年から人が来なくて酒造りができない」という切実な声をずっと聞いていました。 そんな課題を直接解決するために立ち上げたのが「酒蔵エージェント」です。実は「酒蔵で働く」という選択肢を知らないだけで、興味を持っている若者や学生は意外と多いんです。ただ、蔵元さんが求めているのは何より「ガッツ」です。朝が早く、体力も必要ですし、地方での生活が求められるなど大変な面もあります。それでも、自分が造ったお酒がお客様に選ばれ、「美味しい」と言ってもらえる瞬間を味わえるのは究極のやりがいだと思います。
ーーこれまで様々なお話を伺ってきましたが、和田さんにとって、ズバリ「日本酒の魅力」とは何でしょうか?
和田さん 深い歴史と、そこに込められた造り手の想いに触れられるところですね。私自身、学生時代に衝撃を受けた1杯から日本酒の世界に“くらって”しまったわけですが、全国各地の酒蔵にはそれぞれに守り抜いてきた伝統と、新しいことへ挑戦する情熱があります。そうした造り手の生き様そのものを味わえることこそが、日本酒が持つ圧倒的な魅力ではないでしょうか。
ーー造り手の生き様を一緒に味わう……まさにその通りですね。一杯のお酒に込められた背景やストーリーを知ることで、これからの味わいもより一層深まりそうです。 それでは最後に、これから日本酒に触れてみようという若い世代やSAKEMAPの読者に向けてメッセージをお願いします。
和田さん 「何を飲むか」ももちろん大事ですが、「誰と、いつ、どんな状況で飲むか」という体験そのものがとても重要だと思っています。例えば、初めて会う緊張している相手でも、一緒にお酒を飲むことでだんだんと心の距離が近づいていく。お酒にはそんな素敵な効果があります。 地方へ行っていい銘柄をお土産に買って誰かと飲んだり、酒蔵を見学してその場で飲んでみたり、あるいは居酒屋で楽しんだり…ただ飲むだけでなく、体験としての新しい日本酒の楽しみ方をどんどん広げていってほしいですね。
日本酒の多様な世界に魅了された和田さんの情熱は、全国の酒蔵を支える力強い原動力となっています。 資金や人材といった課題を一つひとつクリアし、酒蔵の未来を面白く、ワクワクするものに変えていくアンカーマン。これからの日本酒業界がどう進化していくのか、彼らの挑戦から目が離せません。
【イベント情報】「好き」を仕事に! 「飲める!酒蔵合同就職説明会2026」

記事の中でも触れられていた「人材不足」の課題解決の一環として、酒類業界に特化した就職・転職イベント「飲める!酒蔵合同就職説明会2026」が、8月11日(火・祝)に東京・大田区で開催されます! 日本酒好きの新卒からU35までを対象に、全国の有名酒蔵や酒類関連企業約20社が出展します。当日は「獺祭」「八海山」「黒龍」など代表銘柄の試飲を楽しみながら、現場社員や蔵元と直接交流できるアットホームなイベントです。また、東京・世田谷の老舗酒販店「朝日屋酒店」代表の小澤和幸氏による利き酒セミナーも開催されます。 日本酒業界への就職に興味がある方が、“好き”を仕事にする第一歩を踏み出せるイベントです。ぜひ足を運んでみてください!
■飲める!酒蔵合同就職説明会2026
開催日時: 2026年8月11日(火・祝) 10:00 ~ 17:00
会場: 大田区産業プラザPiO(東京都大田区南蒲田1-20-20)
料金: 500円(※1,000円相当のお弁当・お茶をご用意)
参加資格(必須): お酒が好きな方、20~34才の方、酒蔵をはじめとする酒類業界への就職/転職に興味がある方(新卒・第二新卒・中途採用希望者)
詳細・申込URL: https://gosetsu2026.peatix.com/view









