日本酒を愛し、その魅力を広めるために奮闘する「人」にスポットを当て、熱い想いやストーリーを深掘りするインタビュー企画「サケビト」。今回は、全国の酒蔵でしか味わえなかった「しぼりたての生酒」のフレッシュな味わいを、いつでもどこでもグラス1杯から楽しめるようにした画期的なシステム「KEG DRAFT SAKE(ケグドラフトサケ)」を展開するクリップクリエイティブ株式会社(KEG DRAFT JAPAN)の代表・渡邊大さんにスポットを当てます。
本記事では、、KEG DRAFTの立ち上げ初期から協力されている兵庫県明石市の「茨木酒造」さんの訪問に同行し、画期的なシステム誕生の裏側と日本酒にかける熱い想いをたっぷりと伺いました!
物流の現場で直面した「生酒流通」の壁

ーー本日はよろしくお願いします! まずは「KEG DRAFT SAKE」がどのようなシステムなのか教えてください。
渡邊さん KEG DRAFT SAKEは、光や酸素を全く通さない特殊な10L容器(KeyKeg)に日本酒を充填し、専用サーバーで提供するシステムです。しぼった直後の日本酒には、発酵過程で自然と生まれる微発泡の炭酸ガスや、もぎたての果実のようなフレッシュ感があります。グラスに注ぐ瞬間までお酒が空気にも光にも触れないため、酸化や光による劣化を防ぎ、長期間品質を落とさずに提供できるんです。
ーー 本当にすごい技術ですよね! 私も実際に飲ませていただきましたが、グラスに注がれた瞬間からシュワシュワとした微発泡感が弾けて、しぼりたてのようなフレッシュさにとても感動しました。渡邊さんがこの画期的なシステムを開発されたきっかけは何だったのでしょうか?
渡邊さん 私は前職が物流会社で、今から15~6年前に香港などへよく出張していました。当時、日本酒は温度管理がされないドライコンテナで海外へ送られていて、現地で飲むと味が変わってしまっていたんです。 「生酒なんて恐ろしくて輸出できない」と言われていた時代でしたが、「物流会社として品質管理全体をアシストするから、生酒を出そう」と提案したのが、私が日本酒業界の仕事に関わる最初のきっかけでした。
ーーそこから、どのようにして現在の「ケグ(樽)」の形に行き着いたのですか?
渡邊さん 温度管理が可能なリーファー(定温)コンテナを使って生酒の輸出を実現させたものの、レストラン側には「抜栓後のロスが怖くてボトル売りしかできない」という課題がありました。生酒は劣化が早いため、気軽にグラス単位で提供することが難しかったんです。どうすればグラス売りができるかと悩んでいた2015年、オランダで新しいビール用容器「KeyKeg」に出会いました。これは軽量の二重PETシェルの中にアルミバッグが入った三重構造になっており、光や酸素を完全に遮断できる画期的な容器でした。単なる使い捨て容器ではなくブルワリーのタンクの味をそのまま提供できるという点に惹かれ、「これが日本酒に転用できないか」と思ったんです。そこですぐ、オランダの会社へ直談判に行き、日本酒用の小型ケグを作ってくれないかと頼み込みました。
ーー思い立ってすぐにオランダまで直談判に!? ものすごい熱意と行動力ですね! そこから商品化まではスムーズに進んだのでしょうか?
渡邊さん いや、そこからが本当に長かったんです。未知の容器だったので。その後独立し、茨城酒造さんなど3つの蔵元さんに協力してもらって、品質検査などの試験を3年ほど繰り返しました。茨城酒造さんは、一番最初にケグに詰めてくれたパイオニアなんですよ。
「当日充填」という妥協なきこだわり

ーー未知の容器での試験は、ご苦労も多かったのではないですか?
渡邊さん そうですね。実は初期の頃、タンクでしっかり温度管理された生酒をケグに詰めていたのですが、それだと充填するまでの間に炭酸ガスが抜けてしまい、どんなに容器の性能が良くても半年後には「生ひね(劣化)」が起きてしまったんです。
ーー 容器だけでなく、詰めるお酒の鮮度そのものが重要だったのですね!
渡邊さん はい。ケグドラフトが長期間フレッシュさを保てる最大の理由は、特殊な充填メカニズムにあります。空のケグの中にはあらかじめ待機気圧の約2倍(約2バール)の圧力がかかっています。そこに専用のポンプを使って、2.7バールほどの強い力でお酒を押し込んでいきます。この高圧縮により、しぼりたての日本酒に含まれる微小な炭酸ガスが、シュッと強制的に液中に溶け込みます。生ひねの原因となる酸素がない環境のまま炭酸ガスが溶け込んだ高圧縮状態でお酒がパックされるため、長期間経ってもフレッシュさを保てるんです。だからこそ、品質を落とさないためにはガスが抜ける前の状態が必須で、蔵元さんには「火入れはせず、できるだけしぼった当日にケグに詰めてほしい」とお願いするようになりました。
ーー しぼったその日に充填するというのは、蔵元さんにとっても大変な作業ですよね。
渡邊さん ええ、当時の酒造りの常識からすると「そんなの無理だ」と言われるようなわがままな要求でした。でも、そこに妥協せず、品質の良いものを追求したからこそ、他にはない最大の価値が生まれたと思っています。
国内外で広がる反響と「本物」を伝える喜び

ーー 商品化に至るまで大変なご苦労があったとのことですが、実際にリリースされてからのお客さんや周囲の反響はいかがでしたか?
渡邊さん 容器をたくさん売って「蛇口から日本酒が出る珍しい仕組みですよ」と売り込めば、短期的な売り上げは伸びていたかもしれません。しかし、ただ物珍しさだけで広めてしまうと一時的なブームで終わってしまい、マーケットは成長しません。10年続くビジネスにはならないと思ったんです。そのためだいぶ痩せ我慢はしましたが、「ケグの良さを本当に理解してくれるメーカーさんや飲食店さんととことん作り上げる」ことに特化し、無理な投資はせず、地道に本物の価値を伝え続けました。その結果、ここ1年ほどでお客様が「これ美味しい!」と、積極的に発信してくれるようになりました。今では私たちが営業しなくても口コミで広がる自律運転のような状態になり、ようやく軌道に乗ってきましたね。
ーー 地道な歩みが実を結んできたのですね。国内だけでなく、海外での展開もされているとお聞きしました。
渡邊さん はい。オランダやフランスのイベントで提供した際は、数日で数十リットルが完売するなど、海外でもそのフレッシュな味わいに驚きの声が上がりました。直近ではバンコクでもデビューを果たす予定です(取材当時)。「蔵元でしぼりたての味をそのまま世界へ」という夢が、少しずつ形になっています。
自由なスタイルで、日本酒をもっと楽しく、もっと美味しく

ーー ケグドラフトを通して、これからの日本酒にどのような可能性を感じていらっしゃいますか?
渡邊さん 一番の魅力は、蔵の規模やブランドの有名・無名に関わらず、造り手が精魂込めて造り上げた「本当に良いもの」をそのままの状態で表現できることです。知名度がなくても、一度飲んでもらえれば「こんなに美味しいのか」と気づいてもらえます。私がこの仕事をしていて一番楽しいのは、「これ美味しいですよ!」とシンプルに自慢できることなんですよね。それが一番の発信の源になっています。
ーー 「これ美味しいですよ!」と心から自慢できるって、本当に素晴らしいことですね。渡邊さんのその純粋な熱量こそが、周りの方々に伝わり、日本酒の輪を広げているのだと深く納得しました。 最後に、今後の展望や実現したい目標を教えてください。
渡邊さん クラシックな楽しみ方にとらわれず、もっと自由な日本酒のスタイルを提案していきたいです。最近では、新潟のプロ野球リーグ(オイシックス)の球場で、売り子さんがケグドラフトを背負って観客席にサーブして歩くという企画も始まりました。絶対にストレートで飲まないといけないわけではなく、炭酸で割ったりしてもいいんです。そんな新しい提供方法を通じて、美味しくて楽しい日本酒の体験を広め、仲間をどんどん増やしていきたいですね。
蔵でしか味わえなかった「しぼりたて」のフレッシュ感をそのまま長期間キープする「KEG DRAFT SAKE」。 未知の容器の実用化には、妥協を許さない渡邊さんの情熱と、テスト段階から共に歩んだ協力蔵たちの地道な努力がありました。 グラス1杯から新鮮な生酒を提供できるこのシステムは、飲食店にとってロスをなくすだけでなく、日本酒メーカーが安心して生酒を流通させることができる持続可能なビジネスモデル(SDGs)の構築にも繋がっています。それは単なる新しい容器ではなく、日本酒の常識を変え、未来を切り拓くイノベーションそのものです。お店で「KEG DRAFT SAKE」のサーバーを見かけたら、ぜひその驚きのフレッシュさを体験してみてください!









